じめじめムシムシとした
梅雨の時期がやって参りました。
いかがお過ごしでしょうか。
梅雨時期の花と言えば
アジサイが代表格として
名を馳せてはおりますが
ハスもまたこの時期に花を咲かす
植物でございます。
ハスにおきましては仏教の関連で
日本人には馴染みのある花かもしれません。
聞くところに寄りますと
泥の中より咲く蓮は
たくさんの苦しいことが起こる
こんな世の中でも
力強く返り咲けるように
との意味合いもあり
仏様は蓮を
選ばれたそうでございます。
人生大変なことばかりでございますが
どうぞ蓮のように
ご活躍いただけるよう
お祈り申し上げます。

小事、小言でございますが・・・。
私ども、毎日せっせとふくれ菓子なるものを
作らさせていただいております。
昔ながらのその作り方は
時代は変われど
守らなければならないものでございまして
今日もまた懲りもせずに
同じように作らなければならないのでございます。
しかし。でございます。
昨今、時代の変化と共に
「体験」というサービスを売りに
世の中は盛り上がっております。
コンセプトカフェのような
ただただ飲み物と場所を提供するのではなく
何かしらの体験と共に
お客様に満足していただこう
という趣旨のものでございます。
私個人の意見ではございますが
その際たるサービスがかの有名な
「ネズミーランド」でございます。
人々は入場や1アトラクションに
長い行列を作ってまで
そのサービスを楽しまれようとする背景には
「ネズミー」のブランド力もさることながら
単純にそれだけ楽しいのでございます。
圧巻。
その一言に尽きるのでございます。
そして当店としてもやはりこの
ビッグウェーブ
乗らない手はございません。
そして億万長者を夢見る私としては
他のお店ましてやネズミーランドをも
超える先の一手、
いや十手をも投じなければなりません。
昨今の「体験型」に特徴付けられるのが
「楽しい」や「驚き」でございます。
その時間を過ごした後に
気持ちの良い時間を過ごしたと
満足してお客様は帰られるのでございます。
と、いうことは。でございます。
先の一手、十手を投じる為には
逆の発想が必要となるわけでございます。
そして逆説的に言えば虚しさを売りにする
体験型ふくれ菓子専門店
「場末スナック・やすえ」
で確定でございます。
あー私には見えます。
万札の束で仰ぎながら葉巻を吹かす
私の未来が。
まず入店されますと
薄暗く掃除も行き届いていない店内。
赤紫色のベルベットソファに
曲の更新されないカラオケ。
奥の方には酔い潰れた
中年男性の常連客のケンさん。
「ケンさん」という名前は
決して本名ではなく
咳払いをするときの音が
ケンケン。と聞こえるので
ケンさんと呼ばれています。
本名は誰も知りません。
(ケンさんはいつもツケ払いで飲みます)
カウンターの奥にいるのはママ。
派手目の化粧と夜の服を纏い
酒焼けでシワがれた声は
実年齢よりも老けて見えるのでございます。
…60歳。いや、70歳。
いいえ、年齢を考察するのは
野暮というものです。
そんなママは奥の方から
お客様に疲れた冷たい視線をおくると
無愛想に
「どうぞ。」
と。
何をどうぞなのかわからないお客様は
とりあえず座り心地の悪いカウンターに
腰を掛けるのでございます。
ママは何もお伺いもせず
カウンターの奥にある
ライムグリーン色の
丸い小さな椅子に座り
ほっそいタバコに火を着け
狭い店内で永遠を見ながら物思いにふけ始めます。
そこでお客様は
ようやく気づかれるのでございます。
ふくれ菓子なんか全く無いことに。
BGMのように
ケンさんの独り言、
人生への後悔がただただ
奥の方から聞こえるだけ。
お客様は
何か大事なものを失ったかのような
切ない気持ちになり店を退店されます。
あんな店、行かなきゃよかった…。
そして数ヶ月と経った頃でしょうか。
「顧客満足度が大事」
と世に溢れ返った建前のサービス達に
疲れ切ったお客様は
少しの罪悪感を抱えながらも
「場末スナック・やすえ」
の扉をまた開けてしまうのでございます。
「ママ、今日も忙しそうだね。」
葉巻を吹かしながら
そう話し掛ける私は
下品そのもの。
「あんたほど悪いやつを、あたしゃ見たことないね。」
「ははは、ママには負けるさ。」
無愛想な表情のまま
カウンターの奥へと消えるママの背中は
いつも寂しそうなのでございます。
Welcome to やすえ。